2017.07.11.09.39

てけりりてけりり

いずれの作家も東京創元社 (Tokyo Sogensha) の創元推理文庫 (Sogen Mystery Paperbacks) で全集が編まれているから、エドガー・アラン・ポー (Edgar Allan Poe) [18091849] とハワード・フィリップス・ラヴクラフト (Howard Phillips Lovecraft) [18901937] の代表作は殆ど読んでいる。そして、その結果、このふたりの作家に、共通解と謂うモノが殆どないのではないか、と思えて仕方がならない。

もしそんなモノがあるとすれば、男性 (Male) でアメリカ合衆国 (United States Of America) 出身である事くらいだ。文章は勿論、英語で綴られている。生没年には1世紀程の開きがある。ここまではいい。そして、それらを理由として、彼等ふたりのそれぞれの独自性を認識するのは、それ程、間違ってはいない。

だけれども、彼等ふたりの作品群に置ける主題や世界観、そしてそこから産まれるであろう描写や表現はどうなのだろうか。

エドガー・アラン・ポー (Edgar Allan Poe) の作品は多岐の領域を横断しているが、その幾つかは恐怖を主題とした作品群だ。そして、それらをもって、エドガー・アラン・ポー (Edgar Allan Poe) と謂う作家は今日でも特異で独自の地位を得ている。

そして、ハワード・フィリップス・ラヴクラフト (Howard Phillips Lovecraft) も同様。寧ろ、彼の場合の殆どが恐怖を主題とした作品群ばかりで、そうではない作品群を見いだすのは難しい。もしかしたら、それ以外に彼には主題はないのかもしれない。

ところで、上で「恐怖を主題とした」と謂う表現を安易に綴っているが、その肝心要の恐怖が、このふたりの作品群に於いて、全く異なったモノの様な気がする。

否、どちらの作品も怖いし、恐ろしい。しかし、怖い、恐ろしいと訴えるモノが全く違う様な気がする。さもなければ、それを感じるこちらの感覚器ないしや感覚する部位が異なるのであろうか。

敢えて喩えるのであるならば、エドガー・アラン・ポー (Edgar Allan Poe) の恐怖は鋭利で冷たく理知的な剃刀の様な存在で、ハワード・フィリップス・ラヴクラフト (Howard Phillips Lovecraft) のそれは、黒くて重い常識の埒外にある程の、鈍器の様な存在だ。そして、そんな凶器を振りかざしてぼく達読者を襲う狂った存在さえもが、全く異なる人物像をもって描ける様な気がする。

そして、その異なる恐怖が存在する理由を、彼等それぞれの出自や環境や時代や社会に求めても、確かな答えが得られる様な気が全くしない。
とにかく、このふたりの作家には大きな断絶がある。そんな気がぼくにはするのだ。

だから、もしもこの作家達が同時代にしのぎを削る様な関係性にあったら、一体、どんな交流があったのだろうかと、想像を逞しくする。
お互いに敬意を払い合う好敵手の様な関係性を築けるのか、それともそれとは全く逆の、犬猿の仲、そら怖ろしい様な天敵同士となるのか、いくらでも考える事が出来る。

このふたりの作家にそんな断絶を感じるぼくにも、実はたったひとつだけだが共通項がある事を知っている。
それが表題に掲げた語句「テケリ・リ、テケリ・リ (Tekeli-li, Tekeli-li)」だ。

これはエドガー・アラン・ポー (Edgar Allan Poe) の唯一の長編小説『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語 (The Narrative Of Arthur Gordon Pym Of Nantucket)』 [1838年発表] とハワード・フィリップス・ラヴクラフト (Howard Phillips Lovecraft) の小説『狂気の山脈にて (At The Mountains Of Madness)』 [1936年発表] に登場する。

前者では、物語のクライマックスに登場する、得体の知れない鳴き声で、その正体はようと知れないままに、物語は突然、中断する。
後者ではショゴス (Shoggoth) の鳴き声として描写される。ショゴス (Shoggoth) とはハワード・フィリップス・ラヴクラフト (Howard Phillips Lovecraft) 創世のクトゥルフ神話 (Cthulhu Mythos) を彩る得体の知れない生物のひとつだ。

このふたつの小説にはおよそ100年間と謂う雌伏の時代があり、そこだけに着目すれば、エドガー・アラン・ポー (Edgar Allan Poe) の投企した謎の言葉が、その1世紀後、ハワード・フィリップス・ラヴクラフト (Howard Phillips Lovecraft) によって解答が発せられたと看做す事が出来る。
つまり、『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語 (The Narrative Of Arthur Gordon Pym Of Nantucket)』 で聴けるあの声の正体こそ、ショゴス (Shoggoth) なのだ、と。

だが、そんな安易な発想で了とし、ぼく達は安閑としていてもいいのだろうか。

例えば、エドガー・アラン・ポー (Edgar Allan Poe) を推理小説の嚆矢と看做した場合、彼が創造したC・オーギュスト・デュパン (C. Auguste Dupin) はアーサー・コナン・ドイル (Arthur Conan Doyle) 創造のシャーロック・ホームズ (Sherlock Holmes) に大きな影響を与えたであろう事は大いに想像がつくし、そのシャーロック・ホームズ (Sherlock Holmes) を本歌取りした英国探偵エルロック・ショルメ (Herlock Sholmes) をモーリス・ルブラン (Maurice Leblanc) は自身が創造したアルセーヌ・ルパン (Arsene Lupin) の物語に何度も登場させている。
そして、エドガー・アラン・ポー (Edgar Allan Poe) の名前をもじって誕生した江戸川乱歩 (Edogawa Ranpo) の小説『黄金仮面 (The Golden Mask)』 [1930年発表] には、アルセーヌ・ルパン (Arsene Lupin) が登場するのである。

だけれども、こと「テケリ・リ、テケリ・リ (Tekeli-li, Tekeli-li)」にあたっては、その様な関係性とは別物の様な気がする。
それをゆうのならば、小説『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語 (The Narrative Of Arthur Gordon Pym Of Nantucket)』 を前日譚として、物語が描かれていく小説『氷のスフィンクス (Le Sphinx des glaces)』 [作:ジュール・ヴェルヌ (Jules Verne) 1897年発表] がそうなのであろう。モーリス・ルブラン (Maurice Leblanc) にとってのシャーロック・ホームズ (Sherlock Holmes) や江戸川乱歩 (Edogawa Ranpo) にとってのアルセーヌ・ルパン (Arsene Lupin) が、ジュール・ヴェルヌ (Jules Verne) にとっての『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語 (The Narrative Of Arthur Gordon Pym Of Nantucket)』 なのだ。

そうではない。

小説『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語 (The Narrative Of Arthur Gordon Pym Of Nantucket)』 と謂う物語自体がおよそ、エドガー・アラン・ポー (Edgar Allan Poe) らしくない作品なのだ。
彼の幾つもの名作は、恐怖小説の古典にして原点、およそ動かしざらぬ地位を得ているが、それ故に、孤高にして絶体のモノですらある。
だが、小説『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語 (The Narrative Of Arthur Gordon Pym Of Nantucket)』 は違うのだ。そこに綴られている恐怖こそが、現在の創作物に描かれている恐怖と幾つもの共通解がある様にも思える。

エドガー・アラン・ポー (Edgar Allan Poe) の小説は明晰だ。そこに描かれている怪異も恐怖も実は、総て自明なモノなのである。その殆ど総てのモノが解明に論理的に説明されていて、そこには不思議な事に一切の非合理や不条理が存在しない。そして、それ故に、そこに恐怖が存在している。
[と、ぼくは認識しているのだけれども、一体、どのくらいのヒトビトがこれに賛意を示してくれるだろうか?]
だが、小説『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語 (The Narrative Of Arthur Gordon Pym Of Nantucket)』 ではエドガー・アラン・ポー (Edgar Allan Poe) は、それまで築いてきた自身の手法を放棄している。謎は謎のまま、非合理は非合理なまま、不条理は不条理なまま、そこに放置している。
その手法は逆に、物語が現在、恐怖を物語る手法に酷似している。
もう少し噛み砕いて綴れば、その小説の描写は、エドガー・アラン・ポー (Edgar Allan Poe) 本来のそれから遠く離れて、ハワード・フィリップス・ラヴクラフト (Howard Phillips Lovecraft) のそれに近い。

それ故に、ハワード・フィリップス・ラヴクラフト (Howard Phillips Lovecraft) 創造のショゴス (Shoggoth) は「テケリ・リ、テケリ・リ (Tekeli-li, Tekeli-li)」と鳴くのではないだろうか。

images
"There Arose In Our Pathway A Shrouded Human Figure" 1898 illustrated by Arthur David McCormick

次回は「」。
関連記事

theme : ふと感じること - genre :

i know it and take it | comments : 0 | trackbacks : 0 | pagetop

<<previous entry | <home> | next entry>>

comments for this entry

only can see the webmaster :

tackbacks for this entry

trackback url

http://tai4oyo.blog108.fc2.com/tb.php/2324-fd80dda7

for fc2 blog users

trackback url for fc2 blog users is here