2017.02.21.10.04

さいこ

語られるべき物語がそこで切断され、そのままそこに放置されてしまっている様な気が、いつもしてならない。
つまり、ぼくはジャネット・リー (Janet Leigh) 主演の、もうひとつの映画、彼女がそこで演じたマリオン・クレイン (Marion Crane) のその後を夢みているのだ。

勿論、映画『サイコ (Psycho)』 [アルフレッド・ヒッチコック (Alfred Hitchcock) 監督作品 1960年制作] におけるシャワー・シーン (The Shower Scene) がある事によって、ジャネット・リー (Janet Leigh) はその作品の主演女優であるし、彼女が演じたマリオン・クレイン (Marion Crane) はそこで語られる物語のヒロインではある。
彼女はそこで無惨な死を遂げるがその死が、後の物語を牽引していく。失踪した彼女を追跡して、誰もが皆、そこへと横着しているからだ。

だけれども、ぼくが謂いたいのは、そうではない。
売上を横領し逃走していく彼女が、本来迎えるべき物語の結末を夢想しているのだ。それは決して、そこでの惨死ではない筈だ。

何故、そこに拘泥するのか、してしまうのかと謂うと、映画『サイコ (Psycho)』における彼女は、ある連続殺人事件の被害者達のひとり、しかも最初の犠牲者に過ぎないからだ。
にも関わらずに、幾つも幾つもこれまでに語られてきた同種の物語、そして勿論、これから語られるであろう物語と比べて、あまりにも丁寧にしかも周到に、彼女がそこへと至った過程が語られすぎてはいないだろうか。

殺害される状況が丁寧に描かれるのは解る。
例えば映画『ジョーズ (Jaws)』 [スティーヴン・スピルバーグ (Steven Spielberg) 監督作品 1975年制作] だ。
物語冒頭で鮫 (Shark) に喰い殺される女性のそのシーンは、その作品の主題である人喰い鮫 (Man‐Eating Shark) について、余すところなく語り尽している。そしてそれはこの映画の主題楽曲『メイン・タイトル (Main Title (Theme From 'Jaws'))』 [作:ジョン・ウィリアムズ (John Williams) アルバム『ジョーズ オリジナル・サウンドトラック (Jaws)』収録] の動機を呈示し、後に何度となく描かれる人喰い鮫 (Man‐Eating Shark) の登場シーンの予兆ともなっている。結果、ぼく達は人喰い鮫 (Man‐Eating Shark) の恐怖を否応もなく認識させられるのだ。
しかしその作品に於いては、その犠牲者クリッシー・ワトキンス (Chrissie Watkins) [演:スーザン・バックリーニ (Susan Backlinie)] に関しての情報は、映像に映し出される彼女の肢体=姿態=死体以外は、一切登場しない。

映画『サイコ (Psycho)』は、それとは全く逆なのだ。

[本当はここで具体的な作品名を呈示すべきところなのだが、いまのぼくにはそれに相応しい作品名が思いつかないのだが。]
物語に於いて、連続殺人事件が連続殺人事件として認識されるのはふたりめの被害者が登場して以降なのである。半ば忘れられてしまった事件や事故へと遡る事によって、初めて当該の事件との類似性が発見されて、その事件の謎はさらに混迷する。それが、きっと物語の王道だ。
つまり、ここでも、最初の被害者に関する情報は、それ以降の被害者の登場を待って初めて、欲せられるのだ。

にも、関わらずに、映画『サイコ (Psycho)』においては、と謂う訳なのだ。

勿論、これは映画公開時にアルフレッド・ヒッチコック (Alfred Hitchcock) が用意周到に手配した作戦のごく一部だ。
本作品公開時に行われた、途中入場の禁止、ストーリー口外の禁止、このふたつは観劇者達を欺く為に行われた。これは謂わば、作劇上の外部に於けるトリックだ。
そして、それと同様に試みられたのが、本作品をジャネット・リー (Janet Leigh) の [所謂] 主演映画として謳う事なのである。
だから、その当時、劇場でこの作品を体験する者は誰もが皆、ジャネット・リー (Janet Leigh) の逃亡劇としてみていた筈なのである。
しかし、それが彼女の惨死となって顕われ、物語はそこで初めて始まるのだ。
作品公開時の観劇者の驚きは想像し妄想するしかないが、現在のぼく達がシャワー・シーン (The Shower Scene) を体感するモノとは全く異なる感興に導かれたのに違いない。

images
上掲画像は公開時の映画ポスター。このポスターで印象に遺るのはあくまでも、ジャネット・リー (Janet Leigh) の下着姿だけだ [こちらから]。

だからこその無い物ねだりである事を承知でぼくは、物語冒頭で丁寧に綴られてゆくマリオン・クレイン (Marion Crane) [演:ジャネット・リー (Janet Leigh)] の犯罪の、行方を知りたいのだ。
彼女の瞳孔 (Pupil) がおおきくみひらかれるのは、別の日、別の場所であって、いい。

蛇足である事を承知で付け加えれば、そこで語られるマリオン・クレイン (Marion Crane) [演:ジャネット・リー (Janet Leigh)] の犯罪があるが故に、失踪した彼女を追跡して、彼女の後に続く被害者達が、次から次へと物語の舞台へと登場するのだ。行方をくらました彼女にのっぴきならない理由があるが故に、追跡者達は登場し得るのであって、名もなき女の失踪では、こうも都合よく、第2第3の被害者が顕われようとは思えない。
マリオン・クレイン (Marion Crane) [演:ジャネット・リー (Janet Leigh)] の犯罪も、作品の大きな伏線ではあるのだ。

次回は「」。

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