2017.02.14.11.36

ぶるたいさ

漫画『のらくろ (Norakuro)』 [作:田河水泡 (Suiho Tagawa) 19311941少年倶楽部連載] の単行本はある日、父親が買ってきた。それは戦前に刊行された単行本の復刻版全10冊のうちの1冊で、『のらくろ上等兵 (Private First Class Norakuro)』 [1969講談社刊] と謂う。
完全復刻版と謂う名前の通り、装丁も刊行当時のモノそのままである。そればかりか巻末にある奥付 (Colophon) も広告もその当時のままだ。
漫画『蛸の八ちゃん (Hacchan, The Octopus)』 [作:田河水泡 (Suiho Tagawa) 1931年発表]、漫画『冒険ダン吉 (The Adventures Of Dan-kichi)』 [作:島田啓三 (Keizo Shimada) 19331939少年倶楽部連載]、漫画『タンクタンクロー (Tank Tankro)』 [作:阪本牙城 (Gajo Sakamoto) 19341936少年倶楽部連載]、漫画『長靴の三銃士 (The Three Musketeers Putting On Their Boots)』 [作:牧野大誓(Taisei Makino) 画:井元水明 (Suimei Imoto) 1930年発表]、そんな作品名と粗筋が掲載されている。

買ってきたその日、父親はその本の講釈をぼく達ふたりの兄弟に語ってはいたが、漫画『のらくろ (Norakuro)』と謂う作品よりも、巻末の広告に掲載されていた作品群に関する事の方が多かった記憶がある。
語る父親の話を聴くぼく達だってそうだ。何故なら漫画『のらくろ (Norakuro)』は手許にあり、彼の語る作品群は観る事も読む事も出来ないからだ。

そうして、その漫画は父親の所有から離れて、ぼく達ふたりのモノになる。より正確に謂えば、3歳ばかり年長である事だけが理由で、兄のモノとなる。つまり、これはぼくの本だ。

一方の父親は、ぼく達ふたりの兄弟にその本を与えて、それっきりだ。読もうともしない。

そんな体験はぼくばかりかと思ったら、必ずしもそうではない。
ある日、同級生が『のらくろ総攻撃 (Norakuro Launching)』 [1969講談社刊] を学校に持ってきたのだ。つまり、ぼくの様な父親は彼だけではないらしい。きっと、同世代に属するある種の男性達の、購買欲をそそる作品群なのだ。

ぼくの手許にあった『のらくろ上等兵 (Private First Class Norakuro)』は新兵として入隊した主人公のらくろ (Norakuro) が、幾多の失敗を犯しながらも、最期には伍長 (Corporal) にまで出世する物語、二等兵篇 (Private Episodes One)、一等兵篇 (Private Episodes Two)、上等兵篇 (Private First Class Episodes) に分かれ、その総ては幾つかの短編で構成されている。
のらくろ総攻撃 (Norakuro Launching)』は違う。主人公のらくろ (Norakuro) は少尉 (Second Lieutenant) であり、豚 (Pig) が領有する隣国との戦争を主題とする長編だ。

さて、このままこの文章を『のらくろ (Norakuro)』と謂う漫画作品を廻るぼく達の受容の歴史を繙くモノにしてもいいのだが、記事の題名は残念ながら『ぶるたいさ (Colonel Bull)』と謂う。
だから、その漫画作品に登場する人物、否、犬物 (Dog) と謂うべきであろうか、ブル大佐 (Colonel Bull) について綴る事にする。

ブル大佐 (Colonel Bull) は、のらくろ (Norakuro) が所属する猛犬聨隊 (Savage Dogs Regiment) の聨隊長 (Regimental Commander) である。つまり、のらくろ (Norakuro) の上官である訳だ。
だが、作品を読むにつけ、彼の上官であるよりも、みなしご (Orphan) であるのらくろ (Norakuro) の父親代わりの存在にみえて仕様がない。
彼が失敗ばかりしでかすのらくろ (Norakuro) を叱りつけるその姿はまるで、いたずらをしでかした磯野カツオ (Katsuo Isono) を叱りつける父親、磯野波平 (Namihei Isono) を彷彿とさせる。

しかし、それでは逆だ。

漫画『のらくろ (Norakuro)』の作者である田河水泡 (Suiho Tagawa) と、マンガ『サザエさん (Sazae-san)』 [19511974朝日新聞掲載] の作者である長谷川町子 (Machiko Hasegawa) は師弟関係にあるのだ。
擬似親子であるのらくろ (Norakuro) とブル大佐 (Colonel Bull) の構図をそのまま、磯野家 (Isonos) にある親子関係に流用したとみてみられなくもない。磯野波平 (Namihei Isono) の「バカモン (Idiot!)」がその象徴だ。

尤も、アニメ番組『のらくろ (Norakuro)』 [19701971フジテレビ系列 毎月曜19:00放映] では、主人公役を大山のぶ代 (Nobuyo Ooyama) が担当しており、その当時に放映されていたアニメ番組『サザエさん (Sazae-san)』 [1969年より フジテレビ系列 毎日曜18:30放映] での磯野カツオ (Katsuo Isono) の声も彼女の担当だった。
つまり、日曜日の夜に永井一郎 (Ichiro Nagai) [磯野波平 (Namihei Isono) 役] に叱られていた大山のぶ代 (Nobuyo Ooyama) は翌日の月曜日の夜に、今度は雨森雅司 (Masashi Amenomori) [ブル大佐 (Colonel Bull) 役] に叱られていたと謂う訳だ。
ぼくの中で、のらくろ (Norakuro) と磯野カツオ (Katsuo Isono) がひとつながりしてしまうには、こんな事情もあるのかもしれない。

ところで、不思議に思うのは、何故ブル大佐 (Colonel Bull) が、猛犬聨隊 (Savage Dogs Regiment) の聨隊長 (Regimental Commander) なのか、と謂う事なのだ。換言すれば、ブルドッグ (Bulldog) と謂う犬種がその地位を占めるのか。

ひとつ気づく点は、彼の、ブルドッグ (Bulldog) 特有の顔の皺が、老獪で老練な印象を与えると謂う点だ。逆に謂えば、この作品にレギュラーとして登場する犬 (Dog) の中で唯一、老いを表出している顔なのだ。そして、その老いはそのまま経験とか知識と謂うモノにも密接させる事が出来るのだろう。

もうひとつ気づく点は、ブルドッグ (Bulldog) であるところのブル大佐 (Colonel Bull) の他に、犬種が明快なのは、テリア (Terrier) であるところのモール大尉 (Captain Moul) だけ、と謂う点だ。モール大尉 (Captain Moul) は猛犬聨隊 (Savage Dogs Regiment) の第5中隊長 (Fifth Company Commander)、のらくろ (Norakuro) の直接的な上官なのである。
後に大尉 (Captain) となったのらくろの部下として、 (Japanese Chin) であるところの破片 (Hahen) が二等兵(Private) として入隊するが、それ以外には、明快に犬種を謳ったモノは登場しない。
のらくろ (Norakuro) の上官2匹が2匹とも純潔種であり、犬種の未明な、もしくは雑種ばかりの兵卒を率いているのだ。
もしかすると、将校 (Officer) と兵卒 (Soldier) の間に、犬種としての階級格差と謂うモノがあったのではなかろうか。そんな気がしないでもない。
そこにみてくれも他の犬達と明瞭に違う、みなしご (Orphan) ののらくろ (Norakuro) が登場し、幾多の失敗をものともせずに大尉 (Captain) まで昇進するのだ。
うがったみかたをしようとすれば、いくらでも可能である様な気がする。

images
上掲画像は、行軍中の猛犬聨隊 (Savage Dogs Regiment) 。最前列左に聨隊長 (Regimental Commander) のブル大佐 (Colonel Bull)、同じく右に第5中隊長 (Fifth Company Commander) のモール大尉 (Captain Moul) 。そして、隊列中央にいる黒犬が主人公ののらくろ (Norakuro)、頸にある階級章 (Insignia) をみる限り少尉 (Second Lieutenant) である様だ [画像はこちらから]。

次回は「」。

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