2016.10.16.10.09

『エクスポージャー (Exposure)』 by ロバート・フリップ (Robert Fripp)

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ピーター・ガブリエル (Peter Gabriel) の楽曲『洪水 (Here Comes The Flood)』の、最も美しいヴァージョンが収められている作品である。

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初めて発表されたその楽曲の、彼のソロ・デヴュー作『ピーター・ガブリエル (Peter Gabriel / Car)』 [1977年発表] で発表されたそのヴァージョンにおける、プロデューサーであるボブ・エズリン (Bob Ezrin) の判断によってなされたアレンジメントは、どう聴いてもオーヴァー・プロデュースであって、ピーター・ガブリエル (Peter Gabriel) と謂うアーティストの出自を彼がそれまでに在籍していたバンド、ジェネシス (Genesis) に求めさせるだけだ。逆に謂えば、元ジェネシス (Genesis) のヴォーカリストの楽曲と謂えば、誰もが得心がいくアプローチなのである。
だが、それではその楽曲にある真の美しさは気づかれ難い。
本作『エクスポージャー (Exposure)』でなされた解釈こそによって初めて、楽曲本来の魅力を引き出す事に成功したのだ。

と、謂う視点で、本作を評価するのは容易いのだけれども、それだけをもって本作を語り切るのはどう考えても無謀と謂うモノなのだ。

本作品は、1974年にキング・クリムゾン (King Crimson) を解散し音楽活動から撤退していたロバート・フリップ (Robert Fripp) が、再始動して発表した、個人名義でのファースト・アルバムである。1979年に発表された。
とは謂え、これが文字通りの再始動とは謂い難い。
この作品の前に、ふたつの作品をプロデュースしており、彼個人としては、その2作品と本作品をもって3部作としての位置付けを与えていたのである。
だが、その計画が頓挫してしまったのだ。

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ふたつの作品とは、ダリル・ホール (Daryl Hall) のファースト・ソロ作『セイクレッド・ソングス (Sacred Songs)』 [1977年制作 1980年発表] と、ピーター・ガブリエル (Peter Gabriel) のソロ第2作『ピーター・ガブリエル II (Peter Gabriel / Scratch)』 [1978年発表] である。
後者に関しては本作の作品名でもある楽曲『エクスポージャー (Exposure)』が収録されている。
前者に関しては、レコード会社の意向によって封印され、1980年まで発表されなかった。
ロバート・フリップ (Robert Fripp) と謂うブランドが与える印象が、ダリル・ホール (Daryl Hall) と謂うブランドのセールス・ポテンシャルを減価させるのではないかと謂う危惧がそこにはあったのだ。

そこで、ロバート・フリップ (Robert Fripp) は頓挫した計画を修正すべく、新たな3部作を発案する。その第1弾が本作と謂う訳なのである。
遺りの2作に関しては、その当時、フィリッパトロニクス (Frippertronics) とディスコトロニクス (Discotronics) とされていた。

フィリッパトロニクス (Frippertronics) とは、彼が独自に開発したディレイ・システム (Delay Effect System) であり本作でも随所に登場する。先の『洪水襲来 (Here Comes The Flood)』を前後に挟み込む『ウォーター・ミュージック・パート・ワン (Water Music I)』と『ウォーター・ミュージック・パート・ツー (Water Music II)』とが、フィリッパトロニクス (Frippertronics) を前面に押し出した楽曲だ。
ディスコトロニクス (Discotronics) とは、そのフィリッパトロニクス (Frippertronics) をフィーチャーしたダンス・ミュージック (Dance Music) である。何故、ここに突如としてダンス・ミュージック (Dance Music) が踊り出るのかは一言では説明し辛いのだが、敢えて謂えば、当時の音楽シーンがダンス・ミュージック (Dance Music) 一色に染め上げられていたからなのだ。ヒット・チューンをみれば、ディスコ・ビート (Disco Beat) を取り込んだ楽曲ばかりだし、オルタナティヴなシーンでも別な文脈に於いて、踊ると謂う要素は重視されていたのだ。
いや、それよりもここは単純に、フィリッパトロニクス (Frippertronics) がスピリチュアルな音楽を目指していたとすれば、それとは逆に、ディスコトロニクス (Discotronics) はフィジカルな音楽を目論んでいたと解釈すべきなのかもしれない。

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ではその実際の成果は如何と問うてみれば、次の様な結果となってしまう。
1980年にソロ第2作『ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン God Save The Queen / Under Heavy Manners』が発表される。アナログ・レコードの片面づつに、フィリッパトロニクス (Frippertronics) とディスコトロニクス (Discotronics) を振り分けた形だ。
1981年にはフィリッパトロニクス (Frippertronics) だけをフィーチャーしたアルバム『レット・ザ・パワー・フォール (Let The Power Fall)』が発表されるが、ディスコトロニクス (Discotronics) だけを前面に押し出した作品は依然として未発表だ。敢えて謂えば、本作品にも参加しているバリー・アンドリュース (Barry Andrews) と結成した"ニュー・ウェイヴ・バンド (New Wave Band)"リーグ・オブ・ジェントルメン (The League Of Gentlemen) の唯一の作品『リーグ・オブ・ジェントルメン ((The League Of Gentlemen)』 [1981年発表] をそれと指名する事が可能なのだろう。
この様な結果となってしまったのは、多分にセールスの惨状が大きく影響している様だ。

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そして、ロバート・フリップ (Robert Fripp) は、エイドリアン・ブリュー (Adrian Belew [g, vo]、トニー・レヴィン (Tony Levin) [b,stick]、ビル・ブルーフォード (Bill Bruford) [dr, per] 参加によるキング・クリムゾン (King Crimson) 再始動へと向かうのだ。
[このメンバーでは、『ディシプリン (Discipline)』 [1981年発表]、『ビート (Beat)』 [1982年発表]、『スリー・オブ・ア・パーフェクト・ペアー (Three Of A Perfect Pair)』 [1984年発表] の、以上3作品を発表している。]

ところでぼくは、キング・クリムゾン (King Crimson) と謂うバンドは、1974年の解散以降に出逢ったものの、これまで綴ってきたロバート・フリップ (Robert Fripp) の一連の行動とその成果はリアル・タイムに体験していたのである。
現在でこそ、彼のこの時代の作品を改めて聴く機会はそうないのだが、当時は本当に何度も何度も聴き込んでいたのである。
極端な話、再始動キング・クリムゾン (King Crimson) の第1作『ディシプリン (Discipline)』よりも、本作品の方が遥かに聴き込んでいる。

と、謂うのは恐らく、当時のロバート・フリップ (Robert Fripp) の危機意識が如実にそこで表出している様に思えたからだ。逆に謂うと、本作の制作拠点であるニュー・ヨーク (New York City) と謂う音楽シーンが凝縮してそこに発見出来る様に思えたからである。
"巴里の米国人 (An American In Paris)"ならぬ"紐育の英国人 (An Englishman In New York)" [ここでスティング (Sting.com/) の『イングリッシュマン・イン・ニューヨーク (Englishman In New York)』 [アルバム『ナッシング・ライク・ザ・サン (...Nothing Like The Sun)』収録 1987年発表] を思い浮かべるかゴドレイ・アンド・クレーム (Godley And Creme) の『ニューヨークのイギリス人 (Englishman In New York)』 [『フリーズ・フレーム (Freeze Frame)』収録 1979年発表] を思い浮かべるかは読者の自由だ] と謂う訳ではないだろうが、そこで繰り広げられる音楽の坩堝の中で、異邦人である自身を知って、そして、如何にそれを咀嚼し、さらに、自己のものとして表出すべきか。自己の体験の正直なドキュメンタリーに思えるのである。
[同じ様な体験と体感をした筈の、デヴィッド・ボウイ (David Bowie) やブライアン・イーノ (Brian Eno) やピーター・ガブリエル (Peter Gabriel) の、その後の作品を参照する事。]

当時の彼の主張するスモール・モービル・インテリジェント・ユニット (Small, Mobile, Intelligent Unit) と謂う概念は、パンク (Punk) 〜ニュー・ウェイヴ (New Wave) と謂う方法論の、その受容の成果のひとつでもある。それはひょっとすると、ヴァリス:巨大にして能動的な生ける情報システム (Valis : Vast Active Living Intelligence System) [フィリップ・K・ディック (Philip K. Dick) の小説『ヴァリス (Valis)』[1981年発表] 等に登場] に通底 / 相反するモノなのだろうか。

そして、こんな事も考える。
もし仮に、ロバート・フリップ (Robert Fripp) が無名の新進気鋭のギタリストとして、本作品を発表していたら、一体、どんな評価を得たのだろうか、と。
フィリッパトロニクス (Frippertronics) は、環境音楽 (Ambient Music) として聴くには主張が強すぎるきらいがある一方で、ダンス・ミュージック (Dance Music) として踊るには知性の迸りが強すぎる、つまり、どこにも置く事が出来ない音楽だ。だけれども、個人的にはこの居心地の悪さは決して嫌いではない。
もしロバート・フリップ (Robert Fripp) がフィリッパトロニクス (Frippertronics) と謂う奏法しか持ち得ない不器用な音楽家だったのならば、それをもって高い評価を得る事が可能だった気がしないでもない。
だが彼にはキング・クリムゾン (King Crimson) と謂うもうひとつの、しかも決して小さくない語法があったのだ。
それがきっと [当時の] 彼の不幸なのだ。

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サウウンドだけを取り出してみれば、幾つかの楽曲は、アルバム『ヴルーム (Vrooom)』 [1994年発表] 以降のキング・クリムゾン (King Crimson) と比べても決して引けをとらないと思う。
ただ、違うのはヴォーカリストとその歌唱だ。本作でヴォーカルを担当した、ピーター・ハミル (Peter Hammill) やピーター・ガブリエル (Peter Gabriel) やダリル・ホール (Daryl Hall) やテリー・ローチェ (Terre Roche) の歌唱は、絶対にキング・クリムゾン (King Crimson) では聴けないモノなのだ。
猶、テリー・ローチェ (Terre Roche) が歌唱した表題曲『エクスポージャー (Exposure)』は、当初の予定ではデボラ・ハリー (Deborah Harry) の担当だったと謂う。それが頓挫したのも、レコード会社からの軋轢だと謂われている。

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ロバート・フリップ (Robert Fripp) と謂うアーティストの経歴を丹念に追っていくと、おそらく、大概のヒトビトは本作で混迷すると思う。とても浮いているのだ。
だけれども、この浮き加減、個人的には彼の音楽遍歴の発端である『ジャイルズ, ジャイルズ & フリップ (The Cheerful Insanity Of Giles, Giles And Fripp)』 [1968年発表] に通じるのではないかなぁと思っていたりもする。勿論それはその音楽性と謂うよりも、そこにある諧謔精神を指しての事なのではあるのだが。

ものづくし(click in the world!)168. :
『エクスポージャー (Exposure)』 by ロバート・フリップ (Robert Fripp)


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エクスポージャー (Exposure)』 by ロバート・フリップ (Robert Fripp)

●SIDE A
1. 序章 (1'15")
 Preface
2. ユー・バーン・ミー・アップ・アイム・シガレット (2'22")
 You Burn Me Up I'm A Cigarette
 Words by Robert Fripp
3. 呼吸困難 (4'45")
 Breathless
4. 解放 (2'45")
 Disengage
 Words by Joanna Walton 
5. 北極星 (3'05")
 North Star
 Words by Joanna Walton
6. シカゴ (2'10")
 Chicago
 Words by Joanna Walton
7. ニューヨーク・スリー (2'18")
 NY3
8. マリー (2'11")
 Mary
 Words by Joanna Walton

●SIDE B
1. エクスポージャー (4'22")
 Exposure
2. ヘーデン・ツー (2'51")
 Haaden Two
3. アーバン・ランドスケープ (2'34")
 Urban Landscape
4. アイ・メイ・ナット・ハブ・イナフ・オブ・ミー・バット・アイブ・ハッド・イナフ・オブ・ユー (3'43")
 I May Not Have Had Enough Of Me But I've Had Enough Of You
 Words by Joanna Walton
5. アイ・エー・シー・イー・シャボーン・ハウス就任演説 (0'05")
 First Inaugural Address To The I.A.C.E. Sherborne House
6. ウォーター・ミュージック・パート・ワン (1'27")
 Water Music I
7. 洪水襲来 (3'58")
 Here Comes The Flood
 Words by Peter Gabriel
8. ウォーター・ミュージック・パート・ツー (4'13")
 Water Music II
9. 追伸 (0'37")
 Postscript

All lyrics copyright (C) E.G. Music Ltd. 1978 except 'Here Comes The Flood' - Cliofine / Hit and Run Music

This album was originally conceived as the third part of an MOR trilogy with Daryl Hall's solo album "Sacred Songs" and Peter Gabriel II both of which I produced and to which I contributed. With the non-release of "Sacred Songs" and the delay by dinosaurs of this album it is impossible to convey the sense which I had intended.
Instead "" is now the first part of my own series and will shortly be followed by "Frippertronics" and "Discotronics." Taken together these should provide an overview different in kind but similar in nature to that of my original intention.
Recorded mainly and mixed entirely at The Hit Factory, New York between January 1978 and January 1979.
Engineer : Ed Sprigg
Assistant Engineers : John Smith, Michael Ruffo, David Prentice
Track for "Exposure" recorded at Relight Studios, November 1977.
Engineer : Steve Short
Track for "Here Comes The Flood"
Engineer : Steve Short
"Water Music III" recorded at The House of Music, New Jersey, July 1977.
Engineer : Jim Bonneford
N.B. Ms. Roche's voice on "Exposure" was Fritched.
All Frippertronics other than "Water Music II" - recorded at the Fripp Mobile in the Lower East Side, Upper East Side Hell's Kitchen and the West Village of New York between June 1977 and November 1978. Engineer : Fripp. The album of pure Frippertronics for release in September 1979 is drawn mainly from these recordings.
Location recordings mainly at W. 51st and the West Village.
Obviously, no one location was sufficient to contain all the action described within this record.
(P) 1979 E.G. Records Ltd.

Contributors :
Barry Andrews (courtesy of Virgin Records)
Phil Collins (courtesy of Charisma Records)
Brian Eno
Robert Fripp
Peter Gabriel (courtesy of Charisma Records)
Daryl Hall (courtesy of RCA)
Peter Hammill (courtesy of Charisma Records)
Tony Levin
Jerry Marotta
Sid McGinness
Terre Roche (courtesy of Warner Bros.)
Narada Michael Walden (courtesy of Atlantic Records)
And the voices of (among others)
Shivapuri Baba (courtesy of Mrs Elizabeth Bennett)
J.G. Bennett (courtesy of Mrs Elizabeth Bennett)
Mrs Edith Fripp
Mrs Evelyn Harris

Album Cover :
Chris Stein : design and photography
Steve Sprouse : colorist
Amos Poe : VTR images
Thanks to Mick and Ernie
Mary Lou Green : hair
Cream : typography

This Fripp is indebted to all those who took part in the hazardous series of events culminating in this record, and several who do not appear but who helped determine the final shape : Tim Cappella, Alirio Lima, Ian MacDonald and John Wetton. For the enthusiasm of all involved, thank you. Additional gratitude to Paul Higgins for equipment, moving and kitchen support ; Carlene, Walter and the perennial Dik Fraser ; latterly Ann and Ed ; managers Mark and Sam for following despite disbelief, to Brian Eno for generously introducing me to the technology of skysaw guitar and the tape system which enabled the development of Frippertronics and for advice ; Joanna Walton for her unerring criticism and sense of the appropriate ; the Fripp family for withstanding my investigation of family customs ; and J.G. Bennett for infinitely more than words could replay.
This Fripp is not available for personal correspondence but is contactable via : E.G. Records Inc. E.G. Management Ltd.

(C) 1979 E.G. Records Ltd.

ぼくの所有している日本盤には「クロワッサン 滝本誠」の解説と「(注) 当アルバムB面の7曲目と8曲目の曲間及び、8曲目と9曲目の曲間無録音部分が通常より長くなっていますが、これは、アーティストの意向によりカッティングしたものですのでご了承下さい」と謂う注記がある。
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