2016.09.13.07.38

くじら

「マホメットはヨナの鯨を天上に住まわせた。プリニウスや伝説作者たちによれば、体長900ローマフィート、小舟なら一艘丸ごと呑み込んでしまうような巨大鯨がいるという」

上掲の文章は、コラン・ド・プランシー (Jacques Collin de Plancy) による『地獄の辞典 (Le Dictionnaire infernal)』 [1818年初版刊行] の、その邦訳 [訳:床鍋剛彦 (Takehiko Tokonabe) 協力:吉田八岑 (Yatsuo Yoshida) 1990年初版刊行] に於ける「鯨 Baleine」の項の全文である。
原著では実際にどうなのかは解らない。邦訳がその著作物の抄訳である上に、その凡例に「選択した項目については全訳を原則としたが<中略>部分的に訳出を控えたものも二、三ある」とあるからだ。

そこで『動物シンボル事典 (Dictionnaire du Symbolisme Animal)』 [著:ジャン・ポール クレベール (Jean-Paul Clebert) 訳:竹内信夫 (Nobuo Takeuchi)、柳谷巖 (Iwao Yanagitani)、西村哲一 (Tetsuichi NIshimura)、瀬戸直彦 (Naohiko Seto)、アラン・ロシェ (Alain Roche) 1971年初版刊行 1989年邦訳刊行] にある「くじら [鯨] 仏 baleine 英 whale」にあたると、冒頭に「ヨナのおかげで有名になったものは<中略>書物として記録に残された鯨の中でいちばん由緒が正しい」とある。
ヨナ (Jonah) の逸話は『旧約聖書 (Vetus Testamentum)』の中の『ヨナ書 (Prophetia Ionae)』にあり、それは、紀元前7世紀中頃に成立した書物だからだ。

ここでぼくは、ヨナ (Jonah) の逸話を受けて、童話『ピノッキオの冒険 (Le Avventure di Pinocchio)』 [作:カルロ・コッローディ (Carlo Collodi) 1883年刊行] に於ける主人公とその父親の挿話や、マンガ『侍ジャイアンツ (Samurai Giants)』 [原作:梶原一騎 (Ikki Kajiwara) 作画:井上コオ (Koo Inoue) 19711974週刊少年ジャンプ連載] のモチーフとなる土佐 (Tosa) に伝わる伝説 [この伝説が実際にその地にあるのかそれとも原作者の創作なのかは、ぼくには解らない] へと、話題を横滑りにしたい欲望に駆られているのだが『動物シンボル事典 (Dictionnaire du Symbolisme Animal)』には次の様な記述がある。

「鯨が口の中のひげを通して呑みこめるものといえば、せいぜい子えびぐらいのもので、それ以上大きなものは絶対に無理だからである」

この記述が生物学 (Biology) 的に正しいや否やは、今のぼくには、解らない。そして、仮に髭鯨 (Baleen Whale) に関しては正しい記述であったとしても、ここで言及されていない歯鯨 (Toothed Whale) に関しては一体、どうなのだろうか。
髭鯨 (Baleen Whale) の鯨髭 (Baleen)、と綴ると徒らなトートーロジー (Tautology) めいて読めてしまうが、それの本来持っている食物摂取上での役割 (How To Eat) を考えると、全くもって、不適切な発想であるとは思えない。
髭鯨 (Baleen Whale) の鯨髭 (Baleen) は、フィルター (Filter) の様な役割をもって、海水中にある食餌を、捕獲するからだ。

ところで、 (Whale) がその外形上にも関わらず、魚類 (Fish) ではなくて哺乳類 (Mammal) であると知れたのはいつなのであろうか。

鯨座 (Cetus) をみると、半獣半魚 (Half Beast Half Fish) に描かれている。既にその頃から (Whale) の生物学 (Biology) 的な分類が理解されていたのであろうか。
但し、この星座のモデルは正しくはケートス (Cetus)、ギリシア神話 (Greek Mythology) 上の怪物の事である。王姫アンドロメダ (Andromeda) を捕食しようとしたその刹那、勇者ペルセウス (Perseus) によって亡き者にされたのだ。

そこで、コンラート・ゲスナー (Conrad Gesner) の主著『怪物誌 (Historiae Animalium)』 [全5巻 15511558年刊行] を繙いてみる。より正確に謂えば、同著を紹介している『アラマタ図書館1 怪物 (Aramata Library Vol.1 Monsters)』[著:荒俣宏 (HIroshi Aramata) 1999小学館文庫刊] にあたるのだ。
そこでは「鯨を襲うシャチ」と銘打たれた図版が紹介されている。

海上に3匹の怪物がいる。巨大な海獣 (Marine Animal) と、それに並走する小型の海獣 (Marine Animal) 、そしてさらに巨大な海獣 (Marine Animal) の胸にある乳房のひとつにはそれに喰らいついている海獣 (Marine Animal) がいる。どうやら、巨大な海獣 (Marine Animal) とその乳房に喰らいついている海獣 (Marine Animal) が (Whale) の母子であり、並走している海獣 (Marine Animal) が (Orca) であるらしい。
『アラマタ図書館1 怪物 (Aramata Library Vol.1 Monsters)』に掲載された図版は、綺麗な手彩色版 (Hand-tinted Prints) と思われるが、それと同じクオリティーをもつ画像は、ネット上には見受けられない。残念ながら墨版のみの画像をこちら等で、体験してもらうしかない。
猶、『アラマタ図書館1 怪物 (Aramata Library Vol.1 Monsters)』には次の様な一文が掲載されている。

「ゲスナーは、鯨が哺乳類であることを知っていたのだ。しかも俗にこの事実を一般にひろめたのがゲスナーから150年くだったジョン・レイだといわれている<後略>」

ここで、本来ならばジョン・レイ (John Ray) の発見? について記述すべきなのかもしれないが、ぼくはそれとは異なる事の方に興味が沸く。
描かれている (Whale) も (Orca) も、尾鰭 (Tail Fin) こそあるものの、どちらも立派な前肢が描かれている。つまり、乳房があり哺乳して子を養うと謂う特色は把握されてはいるモノの、前肢が魚類 (Fish) の胸鰭 (Pectoral Fin) の様な形状である事は把握されていないのだ。
そこが面白い。

しかも、そこに描かれている (Whale) の、頭頂部にはふたつの突起があり、そこから液体を噴き出させている。
恐らく、潮吹き (Blowhole) をその様なモノとして把握していた様なのだ。

images
その描写、ぼくにはまるで、マンガ『デビルマン (Devilman)』[作:永井豪 (Go Nagai) 19721973週刊少年マガジン連載] に登場したミーコ (Miko) を彷彿とさせられる。彼女は胸部と下腹部にある突起物から、濃硫酸 (Sulfuric Acid) を噴出する。
あたかも、その潮吹き (Blowhole) が、毒液の奔流の様にみえるのだ。

次回は「」。

附記:
レヴィアタン (Leviathan) と、それをモデルとしたとされるモビーディック (Moby-Dick) には触れられなかった。
前者は、『ヨナ書 (Prophetia Ionae)』と同様に『旧約聖書 (Vetus Testamentum)』の中の『ヨブ記 (Liber Iob)』に登場し、後者は小説『白鯨 (Moby-Dick ; Or, The Whale)』[作:ハーマン・メルヴィル (Herman Melville) 1851年刊行] に登場する。
関連記事

theme : ふと感じること - genre :

i know it and take it | comments : 0 | trackbacks : 0 | pagetop

<<previous entry | <home> | next entry>>

comments for this entry

only can see the webmaster :

tackbacks for this entry

trackback url

http://tai4oyo.blog108.fc2.com/tb.php/2105-39a5dc38

for fc2 blog users

trackback url for fc2 blog users is here