2016.03.29.12.00

くにやぶれてさんがあり

例えば、映画『八甲田山 (Mount Hakkoda)』[森谷司郎 (Shiro Moritani) 監督作品 1977年制作] のエンディング。
全滅した第2大隊第5中隊の数少ない生還者、村山伍長 (Corporal Murayama) [演:緒形拳 (Ken Ogata)] と共に、この漢詩 (Classical Chinese Poetry) が顕れたらどうだろう。その作品の中では、常時、険しい雪山としてしか拝めなかった八甲田山 (Hakkoda Mountains) が全く異なる表情をもって映画を観るモノに姿を顕し、精悍だった村山伍長 (Corporal Murayama) [演:緒形拳 (Ken Ogata)] も老齢に達しているのだった。その背景として、杜甫 (Du Fu) の五言律詩 (Lushi : Five-character Eight-line Regulated Verse) 『春望 (Spring View)』が顕れるのである。

だが、この場合「國破れて 山河在り (Country Damaged Mountains Rivers Here)」の「國 (Country)」とは一体、何を指すのであろうか。そして、破った側、つまり勝者とは一体、誰なのか。

その辺りを考慮して、他の創作作品で同様の試みをしてみよう。

例えばマンガ『空手バカ一代 (Karate Baka Ichidai : Karate Master)』[原作:梶原一騎 (Ikki Kajiwara) 作画:つのだじろう (Jiro Tsunoda) 19711973週刊少年マガジン連載] ではどうだろう。
そのマンガの主人公、大山倍達 (Mas Oyama) は特攻隊員 (Kamikaze) の生き遺りで、恐らく終戦の一報 (Jewel Voice Broadcast) を聴いた刹那に、彼の心象にその漢詩 (Classical Chinese Poetry) が顕れたとしても一向に不思議ではない。死ぬべき宿命のおのれがほんのちょっとした手違いで生還してしまったのだ。しかも、かつてのおのれの世界観や社会観は敗戦によって一挙に崩壊してしまっている。一言で謂えば、虚無だ。
もしも仮に、彼がその時、この漢詩 (Classical Chinese Poetry) を囁くとしたら、一体、どんな心情に於いてなのだろうか。

と、考える事は幾らでも出来るのだが、大山倍達 (Mas Oyama) が特攻隊員 (Kamikaze) の生き遺りであったと謂う設定が活きているのは、この物語のほんの序章に於いての事でしかない。
そこで、彼の物語が終わるのではなくて、そこから彼の物語が始まるのだ。

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では、と謂ってマンガ『デビルマン (Devilman)』[作:永井豪 (Go Nagai) 19721973週刊少年マガジン連載] のラスト・シーンに想いを馳せても、どう仕様もないのだ。
飛鳥了 (Ryo Asuka) = サタン (Satan) と不動明 (Akira Fudo) = デビルマン (Devilman) の壮絶な戦いの果ての後に待っているのは、彼らふたりがそれぞれの立場でもって護ろうとした地球 (The Earth) そのものの、消去 (Delete) なのだから。
「國 (Country)」はとっくに「破れ (Damaged)」た上に、さらに「山河 (Mountains Rivers)」も喪われてしまうのだ。
[上掲画像はこちらから。]

興味のない方々にとっては単なる字義の戯れの様にしかみえないだろう。と同時に、同世代でリアル・タイムにこれらの作品群に接していない方々にとっては皆目、意味不明の戯言にしかみえないだろう。
ぼくが拘泥しているのは、杜甫 (Du Fu) の五言律詩 (Lushi : Five-character Eight-line Regulated Verse) 『春望 (Spring View)』に顕れる「國 (Country)」とは一体、なんなのだろうと謂う事なのだ。

どうしても「國 (Country)」と謂う文字には国家 (Nation)、つまり、ヨーロッパ (Europe) で培われた絶対主義 (Absolute Monarchy) 以降に発生した概念をそのまま「國 (Country)」と謂う文字に嵌め込みたい欲求に曝されるが、そんな単純な解読をしてもいいのかなぁと思ってしまうのだ。この漢詩 (Classical Chinese Poetry) が成立したのは756年頃、安史の乱 (An Lushan Rebellion) が起きた後の事なのだから。

作者の杜甫 (Du Fu) は当時、当時の首都である長安 (Chang'an) にあって下級官吏として禄を喰んでいた。そして安史の乱 (An Lushan Rebellion) によって長安 (Chang'an) が陥落するやそこからの脱出を企てたものの失敗、虜囚の憂き目に甘んじているのだ。
だから、単純な図式で考えれば杜甫 (Du Fu) は、体制側に浴する人物であって、この漢詩にある「國 (Country)」とはその体制を指すモノと看做す事が出来るのだ。

そこまではいい。
問題はそこを踏まえた上でさらに、現代に活きるぼく達が考える様な、国家 (Nation) と個人 (Individual) との対比を持ち込んで、この漢詩 (Classical Chinese Poetry) を詠む事が出来るのだろうか、と謂う疑問はやはりある。

春望 (Spring View)』 杜甫 (Du Fu)
國破山河在 Country damaged mountains rivers here
城春草木深 City spring grass trees deep
感時花濺涙 Feel moment flower splash tears
恨別鳥驚心 Regret parting bird startle heart
烽火連三月 Beacon fires join three months
家書抵萬金 Family letters worth ten thousand metal
白頭掻更短 White head scratch become thin
渾欲不勝簪 Virtually about to not bear hairpin

[書き下し文や現代語訳はこちら等を参照して下さい。]

詩は、遥かな遠望から始まっている。ひとつは人事でひとつは自然だ。人事は無常である一方で、自然は普遍である。その対比に恐れをなす事も、その落差に虚無を感じるのも、読者は自由だ。少なくともそこに描写されているモノは絶対的で、恐らく、誰一人として批判も否定も下しようがない。真実しか顕されていない。
だが、その遥かな眼差しが徐々に近景へと転じていって、そこで描写されているのはひとりの老人の孤独な佇まいでしかない。その人物の境遇に対して、読者は発すべき言葉の幾つかが禁じられてしまっている。非難も批判も出来ないのだ。それは前段に於いて、与えられた遠景の描写が、ぼく達の自由闊達な発言を拒んでいるからでもある。
最終行に於ける「簪 (Hairpin)」への言及は、単純に老いさらばえた境遇の描写だけではない。「簪 (Hairpin)」が挿せないとは、それを用いて冠をつける事も出来ないの謂いで、つまりは衣冠に就く、就職する事も出来ないと謂う意味だ。
と、なると翻って考えれば、ここで謂う「國 (Country)」とは、そおゆう存在、つまりおのれの禄を食む為の存在と認識可能なのだ。
逆に謂えば、それ以上の存在とはここでは決して語られてはいないのではないか、とぼくは想うのだ。

例えば、マンガ『悪魔くん復活 千年王国 (Sennen Oukoku : Resurrection of Akuma-kun Millenarianism)』[作:水木しげる (Shigeru Mizuki) 1970週刊少年ジャンプ連載] のこんな情景だ。
悪魔くんこと松下一郎 (Akuma-kun aka Ichiro Matsushita) の父親である太平洋電気社長 (The President Of Taiheiyo Electric Co., Ltd.) は、悪魔くん (Akuma-kun) から召喚された第五使徒悪魔 (Beelzebub, The Fifth Apostle) の奸計に陥り、全財産はおろかその魂までも債鬼の手に陥る。僅かな隙をついて逃走を試みたその先は富士青木が原の樹海 (Aokigahara Sea Of Trees At Mt. Fuji)。せめて我が魂まではおのれが手許にと謂う魂胆なのだが、つまり結局は、自死するしかないのである。縊死を試みようとする彼の眼前には可憐な花が咲いている。
そこで彼がもし、五言律詩 (Lushi : Five-character Eight-line Regulated Verse) 『春望 (Spring View)』を詠じたとしたら?

次回は「」。
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