2015.12.09.13.26

『ほぼ日刊イトイ新聞』で『21世紀の「仕事!」論。 23 靴磨き職人』を読む

本題に入る前に、この拙稿の元となった『21世紀の「仕事!」論。 23 靴磨き職人』の掲載先をリンクしておく。

ほぼ日刊イトイ新聞』『21世紀の「仕事!」論。』『23 靴磨き職人
第1回 18歳で、もう3年め。
第2回 喫茶店学校。
第3回 弁償した靴、12円の黒字。
第4回 ぜいたくな仕事。
ちなみに、連載企画『21世紀の「仕事!」論。』単独の目次的な頁はなく、『23 靴磨き職人』の頁下部に、"これまでの『21世紀の「仕事!」論。』"が纏められて掲載されている。なので、そちらから興味のある他の「仕事!」にアクセスしたら良いだろう。

猶、以下の文中は敬称を省略させて頂いた。ご了承を願う次第である。

では、はじめます。

もしもぼくがこの連載企画の担当者だとして、その取材先として"靴磨き職人"を想定した場合、最初に悩む事はきっと、一体誰に、どんな人物にインタヴューを申し込むべきなのだろうか、と謂う事だ。

これが"靴作り職人"ならば、答えは遥かに簡単だ。
例えば、映画『天国と地獄 (High And Low)』 [黒澤明 (Akira Kurosawa) 監督作品 1963年制作] の主要登場人物のひとり、権藤金吾 (Kingo Gondo) [演:三船敏郎 (Toshiro Mifune)] の様な人物を捜し出せばいい。
一言で謂えば、文字通りの職人肌。長年、靴作り一筋に生涯の多くを費やしてきた一方で、経営と謂う視点に関してはあまり興味がない。彼が考えるのは寧ろ、靴の造形や利便性ばかりで、その為の経費は二の次だ。良くも悪くも頑固で一徹。そんな人物で大丈夫だろう。

何もそれは"靴作り職人"に限らない。
その証拠に、この連載に過去登場した幾人もの人物達の中に、大なり小なり、その傾向を認める事が可能なモノがいる筈だ。

では、何故、"靴作り職人"で可能な事が、"靴磨き職人"では困難な事態になるのか。
答えは簡単だ。
ぼく達の、否、少なくともぼく達世代の中に、もうひとつの"靴磨き職人"のイメージ像があるからだ。

例えば、TV番組『ウルトラQ (Ultra Q)』 [1966TBS系列放映] の第10話『地底超特急西へ (The Underground Super Express Goes West)』 [監督:飯島敏宏 (Toshihiro Iijima) 脚本:山浦弘靖 (Hiroyasu Yamamura)、千束北男 (Kitao Senzoku) 特技監督:的場徹 (Toru Matoba)] に登場するイタチ (Itachi) [演:山村哲夫 (Tetsuo Yamamura)] と謂う少年である。

例えば、映画『マッシュ (M*A*S*H)』 [ロバート・アルトマン (Robert Altman) 監督作品 1970年制作] の挿入曲のひとつ 『東京シューシャイン・ボーイ (Tokyo Shoe Shine Boy)』 [作詞:井田誠一 (Seiichi Ida) 作曲:佐野鋤 (Tasuku Sano) 歌唱:暁テル子 (Teruko Akatsuki) 1951年発表] の中で唄われる東京シューシャイン・ボーイ (Tokyo Shoe Shine Boy) である [歌詞はこちら]。
[この曲、ぼく達の上の世代ならばリアル・タイムで聴き馴染んでいるのだろうが、ぼく達の極めて限られた世代層は、映画から切り離されたサウンドトラック盤での方が、接する機会の方が可能性としては高いのかもしれない。デス渋谷系 (Deth Shibuya-kei) 〜ロー・ファイ (Lo-Fi) 〜音響派 (Electronica)、呼び方はいく通りもあるが、そのサウンドトラック盤『マッシュ オリジナル・サウンドトラック (M*A*S*H Original Soundtrack Recording)』は、そのジャンルに先行する名作としての評価が1990年代当時、あったのだ。]

つまり、10代もしくはそれに満たない少年達の職業としてある種、"靴磨き職人"のイメージ像が形成されているのである。

勿論、かつての少年達が老成し、場合によっては大成した人物、権藤金吾 (Kingo Gondo) [演:三船敏郎 (Toshiro Mifune)] の様な"靴磨き職人"がいない訳ではないだろう。
案外、イタチ (Itachi) [演:山村哲夫 (Tetsuo Yamamura)] が [もし地球への帰還が叶うならばその後] 技術も経験も豊富な"靴磨き職人"になり得るのかもしれない。

そうやって考えてみると、ぼく達のイメージ像の中にある、少年達の職業としての"靴磨き職人"を無理矢理、引き摺り出す必要性もないのかもしれない。つまり、老人はかつて少年だったからだ。

ところが、『23 靴磨き職人』に登場する等々靴磨店 (Toto Shoe Shine) の店主、山邊恵介 (Keisuke Yamabe) は、18歳。この職業を始めて3年目の人物だ。

それだけで、ぼくは驚いてしまう。
何故、彼なのか。と、同時に思うのは、そんな人物がいるのか、と謂う事だ。

上に綴った様な逡巡をしていたくせに、と思われるかもしれないが、そうではない。
ぼくの驚きの中には、職業として、つまり生業として、"靴磨き職人"が成り立つのだろうか、と謂う事なのだ。

例えば、駅の構内やその間近に、靴磨き屋はある。しかし、そのどれもがチェーン店であって、そこに"職人"と謂う称号に相応しい人物はいそうにもない。
だから、上に綴った様な逡巡を反故にしてしまうかもしれないが、ぼくの中にある、現存する"靴磨き職人"は、かつて少年だった人達だ。

それだけで18歳の、山邊恵介 (Keisuke Yamabe) の登場には吃驚してしまうのだ。

それはインタヴュアーである奥野武範 (Takenori Okuno) も、多かれ少なかれ、同様の立地点にいる様だ。
凄まじく基本的な事柄、しかも、聴き方によっては不躾にも失礼にもあたるかもしれない事柄に、興味が向かう。
せっかくだから拾い出してみよう。

「靴って、自分でも磨けるじゃないですか」 [第1回]
「原因は‥‥いや、差し支えなければ」 [第2回]
「こちら、ご商売としては、どうなんですか?」 [第3回]
「我が子のことを思ったら、そうなりますよね」 [第4回]

こうやってその部分だけを抜き書きすれば、そこにあるのは悪意に近い様な覗き見感覚が透けて見えるかもしれないが、本文を丁寧に読んでいればそんな気配は微塵もない。
それはふたりの間に、きちんとしたコミュニケーションが成立しているからであろうが、それよりもそんな質問に、真正直に丁寧に対応している山邊恵介 (Keisuke Yamabe) の方に、多くをよっているのかもしれない。

ところで、一見、極めて特殊な職業の、極めて特殊な人物への取材記事の様に思えるかもしれないが、「『仕事!』論」として成立する普遍的なことばはいくつも転がっている。

山邊恵介 (Keisuke Yamabe) を"靴磨き職人"へと実質的に育てあげた「喫茶店学校」 [第2回] も、彼の [現時点での] 唯一の汚点である「弁償した靴」 [第3回] も、決して特殊な事例ではない。

前者に関して謂えば、自身のアイデンティティ成立に第一義的に関わるコミューンがなかっただろうか、と思いを巡らせばいい。それでも、ないと思えるのであるならば、第4回を読めばいいだろう。

後者に関しては、特殊な技能に起因するモノでもなんでもないのだ。いつでも、どこでも、誰にでも起こりうる、単純でつまらない初歩的なミスが原因なのだ。

5年後、10年後、いやもっと後でもいい。
その時に再び、山邊恵介 (Keisuke Yamabe) のインタヴューを読めればいいと思う。
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