2015.10.06.10.07

にくじゃが

題名に掲げた料理のレシピめいたモノはこの拙稿には登場しません。
クックパッド (Cookpad) 的なモノを期待された向きには、大変申し訳ありませんでした。

と、とりあえず詫びを入れたところで、本題。

「みんなが好きな肉じゃがは、何故、こうも愛されているのだろうか。
例えば、殆ど同じ様な味付けの料理と謂えば、牛丼もあればすき焼きもある。
例えば、殆ど同じ様な食材を起用した料理と謂えば、カレーもあればシチューもある。
なのに、なにゆえに肉じゃがなのか。
もしかしたら、牛丼やすき焼きとカレーやシチューと、そのいいとこ取りをしているつもりなのだろうか。」

と、謂う様な文章があったとしたら、皆さんはどう思われるだろうか。
上の文章、好き勝手な事をただ論っているだけの文章ではあるが、それにしても酷い。その酷さの、ここではそのひとつを、指摘してみよう。

文頭に「みんなが好きな肉じゃが」とあって、以下の論法はこの「みんなが好きな肉じゃが」を前提として論が終始している。にも関わらずに、「みんなが好き」と謂う大前提の根拠が一切語られていない。本来ならば、それを裏付ける為の根拠となる資料や数字やデータを紹介するか抜粋するか、さもなければその典拠となるモノを示唆すべきところではある。
だが、ここではそれらもしくはそれらに類するモノは一切、指し示されてはいない。

酷いなぁ、と思うかもしれないが、この様な文章構成ないしは論理構成を採ったモノは、意外と多い。
と、謂うのは、そんなあやふやな大前提ではあっても、ないに越した事はないからだ。いや、それ以上に、あやふやな大前提であるからこそ、その後に繋がる論旨は、筆者の赴くままとなるのだ。

例題 1. )以下の文章A〜Dをそれぞれ読んで、それぞれから受ける印象について、400〜800字で自由に綴りなさい。
なお、Xの性別は女性で、職業は女優、十数年前に出演した映画でアカデミー助演女優賞を受賞した経験があるものとする。

文章A:Xは謂った「わたしの大好きな小説です」
文章B:女優のXは謂った「わたしの大好きな小説です」
文章C:往年の大女優のXは謂った「わたしの大好きな小説です」
文章D:アカデミー賞女優のXは謂った「わたしの大好きな小説です」

例題に対しての回答も例答もここでは書かない。だけれども、考えなければならない事は、少なくとも、次の事だ。
このよっつの文章の、いずれかを起点として記事ないしは論考ないしは物語を綴らなければならないとしたら、先ず考えなければならないのは「X」の修辞句として相応しいのは、なんなのかと謂う点、つまり「女優の」なのか「往年の女優の」なのか「アカデミー賞女優の」なのかと謂う点だ。
但し、この点に関しては誰もが考える。この後に「X」に関する記述が続くとすれば、それは尚更だ。

だが、それと同時に考えなければならない事がある。
もし仮にこの後に続く記述が「X」ではなくて「大好きな小説」である場合はどうなのか。
「大好きな小説」の修辞句として相応しいには、「女優のX」なのか「往年の女優のX」なのか「アカデミー賞女優のX」なのかと謂う事を考えなければならない。
そのいずれかを選ぶ事によって、「大好きな小説」に当たるべきスポットがより効果的になる場合もあれば、その正反対の場合もある。

例題 2. )以下の文章E〜Hをそれぞれ読んで、それぞれから受ける印象について、400〜800字で自由に綴りなさい。
なお、Yの性別は女性で、語り手の同級生にして片思いの相手で、文化祭のコンテストで1位に輝いた経歴があるものとする。

文章E:Yは謂った「わたしの大好きな小説です」
文章F:同級生のYは謂った「わたしの大好きな小説です」
文章G:学年1の美少女Yは謂った「わたしの大好きな小説です」
文章H:ぼくがすきだったYは謂った「わたしの大好きな小説です」

考えるべき事は前題の場合と同じ事だ。
但し、例題 2. には前題と異なり話者の主観が入っている。
その結果、記述の書き手は話者の主観をそのまま読者に引き受けさせなければならないと同時に、一旦、読者が話者の主観をひとつでも引き受けさえすれば、読者は記述の書き手が綴る話者の主観に蹂躙される事になる。

images
そんな手法を駆使した文学作品はいくつもあるが、ここではその古典『アクロイド殺し (The Murder Of Roger Ackroyd)』 [作:アガサ・クリスティ (Agatha Christie) 1926年発表] を紹介しておこう。[掲載画像はその初版カヴァー / Dust-jacket Illustration Of The First UK Edition]

「みんなが好きな肉じゃが」と謂う修辞句は、それを踏まえて綴られているのだ。

次回は「」。

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