2015.05.12.10.34

てがみをよむおんな

ヨハネス・フェルメール (Johannes Vermeer) の現存する作品は30数点。
決して多くない作品群のなかに、少なからざる手紙 (Letter) を主題とする作品がある。

手紙を書く (Writting A Letter)。手紙を読む (Reading A Letter)。そして手紙が手渡される (Being Handed A Letter)。

このみっつの行為のうち、最後のひとつは主客を転倒して(That Is Putting The Cart Before The Horse. ) 解釈すれば、手紙を手渡す (Handing A Letter)、だ。

ここで「主客を転倒する (That Is Putting The Cart Before The Horse. )」とおもわず綴ってしまったが、果たしてそれが正しい解釈か否かは解らない。ヨハネス・フェルメール (Johannes Vermeer) のどの作品もそうである様に、そこに物語を見出すのは非常に困難だ。

単純に便宜上、作品の中央部にいる人物をその作品の主人公であるかの様に、もしくは、ふたりの登場人物のうちの若い方を主人公の様に、看做しているその結果にすぎない。
この問題は、ヨハネス・フェルメール (Johannes Vermeer) とその作品を離れた場所で、充分に議論しなければならないおおきな問題を孕んでいる様にみえるが、誰もが都合よく、忘れ去っている。
[例えば、TVドラマ『家政婦は見た! (The Housekeeper Witnessed)』 [19832008テレビ朝日系列放映] を憶い出してみればいい、本来の主人公は決して画面中央にいないばかりか、その年齢も決して誰よりも若くはない。]

そして、それはここでも忘れ去ってしまった方がいいだろう。手紙を手渡す側 (The Side Of Handing A Letter) と手紙を手渡される側 (The Side Of Being Handed A Letter)、双方のいずれかを主人公にした物語は、ここでは考える事は出来ないのだから。

みっつ、ないしは、よっつの物語のひとつ、「手紙を読む (Reading A Letter)」事だけを考えてみる。
話を単純にする為だ。

「手紙を読む女 (Woman Reading A Letter)」とは一体、なんなのだろうか。
考えなければならない点はいくつかある。それはそのまま、古典的な本格派推理小説 (Classic Whodunit) の物語、フーダニット (Whodunit) やハウダニット (Howdunit) の問題でもあるし、英語文法 (English Grammar) で謂うところの5ダブル1エイチ (5W1H) の問題でもある。
否、それだけではない。しかも、それ以上に大事な問題だ。

それは識字率 (Literacy) の問題と郵便 (Mail) もしくはそれを含む通信 (Communication) の問題だ。

前者に於いては、その時代、描かれた人物が属する階級に於いて、なんら問題もなく、女性が文章を読む事が可能であった、と謂う前提が必須なのだ。

その前提を踏まえて後者の問題、その手紙 (The Letter) はどこから (Where) [そして誰から (Who)] どの様な手段によって (How)、作品の中の人物 (To Whom) に届けられたのか、と謂う点を考える必要がでてくる。フーダニット (Whodunit) やハウダニット (Howdunit) の問題や5ダブル1エイチ (5W1H) の問題はこの時点で初めて発生する。

思い出してもらえると嬉しい。例えば平安時代 (Heian Period)、相聞歌 (Love Songs In Waka) をやりとりした男女の間に介在する文は、どの様な手段で伝達されたのかを。

つまり、現時点で考える様な、公的な郵便 (Mail) もしくはそれを含む通信 (Communication) の手段が、ここには介在しているのだろうか、と謂う点が問題なのだ。

「手紙が手渡される (Being Handed A Letter)」ないしは「手紙を手渡す (Handing A Letter)」と謂う事は、その問題が露骨に立ち現れている事の結果でしかない。
手渡す側にとっては既知のモノゴトが、渡される側にとっては未知である事。さもなければ、手渡す側があくまでも推測の域を出ないモノゴトが渡される側にとっては事実でしかない事。
そんな意識の交錯が、それらの作品の主題であるかの様に振る舞われている。

「手紙を読む女 (Woman Reading A Letter)」とは、謂うまでもなく、その交錯の次に語られるべき物語なのである。
それは誰からの手紙 [フーダニット (Whodunit) ] であって、どの様にして手紙の読者へと届けられ [ハウダニット (Howdunit)]、そこでその読者に対して一体何を告げようとしているのだろうか [ホワイダニット (Whydunit)] 。
その結果、物語は次の場へと急転直下するのに違いないのだ。

[それでは「手紙を書く女 (Woman Writting A Letter)」はどこに位置づければいい? 物語の発端なのか、それともその次に続く物語としてなのか。]

もしも仮に、ヨハネス・フェルメール (Johannes Vermeer) の作品の幾つもが、当時流行していた文芸作品や舞台作品に準拠していたのならば、ぼく達が考えなければならない問題は、遥かに簡単なのである。
だが残念ながら、あの作品のあの頁に綴られた文章の視覚化でもなければ、あの舞台のあの役を演じた女優の絵画化でもないのだ。

ヨハネス・フェルメール (Johannes Vermeer) がいた時代、絵画と謂う表現は、宗教と王権ふたつの権威から離れた場所へと向かう。
いまや画家は、神話を描く必要も権力者の肖像を描く必要もない。と、同時に、それは純然とした独立した商品として流通する必要性も生じる一方で、静物画 (Still Life) や風景画 (Landscape Painting) といった、これまでに存在し得なかった表現領域が絵画 = 商品として成立しさえもする。

その中にあって、物語ならざる物語が潜んでいる様にみえるヨハネス・フェルメール (Johannes Vermeer) の作品は、一体、どの様なかたちで絵画 = 商品として存在し得たのだろうか。

いまのぼく達がヨハネス・フェルメール (Johannes Vermeer) の作品に向かう際と、作品が描かれた当時のヒトビトが彼の作品に向かう際とでは、純然に視点は異なっているのに違いない。
ぼく達がそれらの作品に求めているモノを、彼らは決して求めていない筈だ。

images
ふと、それは窃視 (Voyeurism) なのか、と謂う語句も漏れてしまうのではあるが。
[上記掲載画像はヨハネス・フェルメール (Johannes Vermeer) 作『恋文 (Liebesbrief)』 [アムステルダム王立美術館 (Rijksmuseum Amsterdam) 所蔵 1670年頃の制作] ]

ここから先はもう少し考えてみたい。

次回は「」。

附記:
この記事を書く前にあたって、不意に思い出してしまったのが特撮TV番組『怪奇大作戦 (S.R.I. und die unheimlichen Falle)』 [19681969TBS系列放映] の第4話『恐怖の電話 (Tod am Telefon)』[監督:実相寺昭雄 (Akio Jissoji) 脚本:佐々木守 (Mamoru Sasaki) 特殊技術:大木淳 (Jun Ohki)] である。
番組が放送された当時、サイエンス・フィクション (Science Fiction) であるのはその殺人方法だけでしかなかった筈なのに、現在の通信 (Communication)を前提にこの物語を観ると、電話 (Telephone) の受信者からその発信者へと電話線 (Telephone Line) を逆に辿っていくその追跡手法そのものがサイエンス・フィクション (Science Fiction) であるかの様な印象を受けてしまう。
つまり、本来であれば、あり得ない出来事は物語のほんの一部でしかない筈なのに、物語そのものが架空の社会や架空の時代の出来事の様な様相を呈してしまう。物語総てがスチームパンク (Steampunk) 的な色彩を帯びてみえるのだ。
ヨハネス・フェルメール (Johannes Vermeer) の画題である「手紙を読む女 (Woman Reading A Letter)」とは、そんな際どい綱渡りをした後に、ようやく、ぼく達が鑑賞し得る作品なのかもしれない。つまり、ぼく達は作者であるヨハネス・フェルメール (Johannes Vermeer) さえもが観ていない物語の結構をもそこに、みいだしてしまっているのかもしれないのだ。
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