2015.03.24.10.24

せいかぞく

この連載ルールに則って、平仮名 (Hiragana) にひらいたタイトルを上の様に掲げると、なんだか妖しい語感が湧く。
しかし、通常の作法に則って、正常な漢字表記をすれば『聖家族 (Sacra Familia)』。
とは謂っても、堀辰雄 (Tatsuo Hori) の小説『聖家族 (The Holy Family)』 [1932年発表] とは関係はない。況や、古川日出男 (Hideo Furukawa) の『聖家族 (Holy Family)』 [2008年発表] をや。

ここで綴られていくべきはキリスト教美術 (Christian Art) のアイコン (Icon) のひとつであって、幼子イエス (Iesus) とその母マリア (Sancta Maria)、そしてマリア (Sancta Maria) の法律上の夫であるナザレのヨセフ (Iosephus) を描いた作品群の事である。
場合によっては、この親子3人に加えて幼子イエス (Iesus) の母マリア (Sancta Maria) の母である聖アンナ (Saint Anne) や、幼子イエス (Iesus) が成長した後に彼に洗礼 (Baptismus) を施す洗礼者ヨハネ (Ioannes Baptista) が恰も幼子イエス (Iesus) の長兄であるかの如き幼児の面影でもって描かれている場合もある [直前の文章が一読、もってまわったような長々しい記述となっているのは、例えば『マタイによる福音書 (Evangelium secundum Matthaeum)』冒頭にみられる様な、その宗教の伝統的記述方法によったまでだ]。

これらの作品群を、キリスト教 (Religio Christiana) に疎いヒトビトが一見すれば、幼子イエス (Iesus) とその母マリア (Sancta Maria) とその法律上の夫ナザレのヨセフ (Iosephus) を描いたそれは単に、父親 (Father) と母親 (Mother) と幼い息子 (Son) を描いた睦まじい作品にしかみえないのかもしれない。
そんな親子に聖アンナ (Saint Anne) と洗礼者ヨハネ (Ioannes Baptista) のいずれかの一方、もしくは両方のふたりが加わった作品は、外見上は、祖母 (Grandmother) とその娘夫婦、もしくはふたりの幼い息子達 (Sons) を抱えた夫妻、さもなければ3世代にわたる家族とみえるのに違いない。

だから、本来ならば、作品内に登場する人物達にそれぞれが聖化された (Sacred) アトリビュート (Attribute) が与えられている。それらが彼らが『聖家族 (Sacra Familia)』である事を明かしているのだ。
さもなければ、作品が掲げられた場所自体が、教会 (Ecclesia) の様な宗教的な場所である事によって、否応なく、彼らが『聖家族 (Sacra Familia)』である事を明示している。むしろ、そちらの方が可能性が高いだろう。

ここで綴るのは、そんないくつもある作品群の中から、レンブラント・ファン・レイン (Rembrandt Harmensz, van Rijn) が描いたモノを取り上げる。
と、断言してもレンブラント・ファン・レイン (Rembrandt Harmensz, van Rijn) 自身もいくつもの『聖家族 (Sacra Familia)』を描いていて、例えば、ルーブル美術館 (Musee du Louvre) には『聖家族、または指物師の家族 (La Sainte Famille dite parfois Le Ménage du menuisier )』 [1640年頃制作] が、エルミタージュ美術館 (Hermitage Museum) には『天使のいる聖家族 (The Holy Family)』 [1645年頃制作] がある。
それらを一望の下に集めるだけで、いくらでも議論が可能なのかもしれないが、それはここではしない。と、謂うか、出来ない。

今回、俎上にあがるのはカッセル州立美術館 (Museumslandschaft Hessen Kassel) 所蔵の『聖家族 (The Holy Family)』 、即ち『カーテンの掛けられた聖家族 (The Holy Family With Painted Frame And Curtain)』 [1646年頃制作] である。

レンブラント・ファン・レイン (Rembrandt Harmensz, van Rijn) のその作品を観ると、その中央にあるのは燃える薪の灯りに照らし出される1匹の猫 (Cat) ではあるが、実際に観るモノの視線を集めるのはその左上方にいる母子 (Mother And Child) であろう。そこから徐々に視線をひけば、その母子 (Mother And Child) は暗い家屋のなかにいるのが解るし、猫 (Cat) を挟んで対照的な位置に、ひとりの男性 (Father?) が屋外でなにかの作業を行っていると知る。
そしてさらに視線をひけば、その3人の叙景は木製の枠の中にあって、その前面に中途半端に引き開けられた深紅のカーテン (Red Curtain) がある。

images
このカーテン (Curtain) は一体、なにか。

ある絵画作品の外枠として額縁を描き、その手前にカーテン (Curtain) を描くのは、なにもレンブラント・ファン・レイン (Rembrandt Harmensz, van Rijn) のこの作品だけの事ではない。
いや、実際はこの作品が初めて行った技法であって、それが同時代の画家に大きな影響を与え、大流行するのだ。
例えばヨハネス・フェルメール (Johannes Vermeer) にも『窓辺で手紙を読む女 (Meisje met brief voor open raam)』 [ドレスデン国立美術館 (Staatliche Kunstsammlungen Dresden) 所蔵 1658年頃制作] や『絵画芸術 (De schilderkunst』 [ウィーン美術史美術館 (Kunsthistorisches Museum) 所蔵 16661667年頃制作] と謂った作品がある。そのいずれの作品でも、画面の手前に中途半端に引き開けられたカーテン (Curtain) が存在しているのだ。

騙し絵 / トロンプ・ルイユ (Trompe-l'oeil) の類かと問えば、その半分は諾と謂えるが、同時に否定も可能だ。

壁にひとつの窓がありその手前にちいさな深紅のカーテン (Red Curtain) が引き開けられている様に、あたかもみえると謂う意味では、この作品に描かれたカーテン (Curtain) は観るモノの錯覚 (Illusion) を促すモノである。
だがその一方で、騙し絵 / トロンプ・ルイユ (Trompe-l'oeil) と謂う技法は、遠近法 (Perspective) の研究の成果であり、その成果を裏返して用いた技法である事を思えば、出自の点で、このカーテン (Curtain) は狭義の意味では、騙し絵 / トロンプ・ルイユ (Trompe-l'oeil) とは異なるところから始まっているのだ。

ぼくがこの作品を知ったのは『レンブラント【聖家族】 描かれたカーテンの内と外 (Rembrandt : 'Die Heilige Familie' oder die Kunst)』 [著:ウォルフガング・ケンプ (Wolfgang Kemp) 訳:加藤哲弘 (Tetsuhiro Kato) 1986年原著発行] である。
この書物では、カーテン (Curtain) が描かれた作品群を追う方向と、『聖家族 (Sacra Familia)』と謂う画題を追う方向 [と謂うのはこの作品が別名『樵の家族 (Family Of The Woodchopper)』と呼ばれる様にレンブラント・ファン・レイン (Rembrandt Harmensz, van Rijn) のこの作品で描かれている家族が幼子イエス (Iesus) とその母マリア (Sancta Maria)とその法律上の夫ナザレのヨセフ (Iosephus) であると謂う補償、即ちアトリビュート (Attribute) が一切与えられていないからだ] 、このふたつの視点で持って、レンブラント・ファン・レイン (Rembrandt Harmensz, van Rijn) の『カーテンの掛けられた聖家族 (The Holy Family With Painted Frame And Curtain)』 に描かれているモノを追求してゆく。
そしてその追求は絵画のなかの世界、つまり作品論だけでなく、その外の世界、当時の社会における絵画の役割や地位まで、及ぶのだ。実在しない、描かれたカーテン (Curtain) の内と外(Inside And Outside) 両方に視線が当てられるのである。
しかも、図版も多く紹介されていて、観ているだけでも楽しい。

次回は「」。

附記 1.:
堀辰雄 (Tatsuo Hori) の『聖家族 (The Holy Family)』に登場するのは、ラファエロ・サンティ (Raffaello Santi) が描いた『聖家族 (Sacra Familia)』だ。彼も、数限りなく『聖家族 (Sacra Familia)』を描いているが、その小説では「聖母を見あげている幼児のそれ」と綴られているから『フランソワ1世の大聖家族像 (La Sainte Famille de Francois Ier)』[ルーブル美術館 (Musee du Louvre) 所蔵 1518年頃制作] なのだろうか?

附記 2.:
レンブラント・ファン・レイン (Rembrandt Harmensz, van Rijn) の『カーテンの掛けられた聖家族 (The Holy Family With Painted Frame And Curtain)』の中で、最も目立つ位置に置かれているのは、上述の様に猫 (Cat)。ふと、同じ画家の1642年の作品『夜警 [フランス・バニング・コック隊長とウィレム・ファン・ラウテンブルフ副隊長の市民隊] (Schutters van wijk II onder leiding van kapitein Frans Banninck Cocq, bekend als de ‘Nachtwacht’)』 [アムステルダム国立美術館 (Rijksmuseum Amsterdam) 所蔵] を思い出す。この作品の中でも、最も目立つのは、題名にも登場するフランス・バニング・コック (Frans Banning Cocq) でもウィレム・ファン・ラウテンブルフ (Willem van Ruytenburgh) でもなくて、一介の名もなき少女なのだ。
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